X68000登場時にはパソコンにはCD-ROMなどの光学ドライブはまだほとんど使われていませんでした。今回、Windows機とのファイル交換を目的にDVDドライブを本体に内蔵させることにしました。

やはり、ドライブはスロットイン・スリム

 マンハッタンシェイプという大型ファイルを2つ台座の上に立てたような独特の筐体を持つX68000は、電源がいかれ、CPUが時代遅れになっても、廃棄しないで、ATXを組み込むケースとして再利用されることが少なくないようです。その際、考慮されるのがFDDドライブのスロットです。多少の扱いにくさはあっても、このスロットでCDの出し入れをするように改造するのは、X68000への熱き想いを未だ捨てきれない愛好家にとって至極当然のなりゆきです。私もそれを念頭にしながら、ドライブ0側はあくまで起動用FDDとしてそのままに、ドライブ1側にDVDドライブを入れることにし、FDD1基と共存できるよう、省スペース型でスロットイン式のドライブがないか探し、以下のものを買い求めました。
  
DVDスーパーマルチスリムドライブスリムドライブ変換コネクタ外付けスリムドライブケース
サムスンSN-T082A
インターフェース:スリムATAPI
対応メディア DVD-R 6x / DVD-R DL 6x / DVD-RW 6x
 / DVD+R 6x / DVD+R DL 6x / DVD+RW 8x
 / DVD-RAM 5x / DVD-ROM 8x / CD-ROM 24x 
ティーエフテック ジャパン
 SIDE-IDE
スリムドライブATAPI用50pinメス →
 IDE用40pinオス + 4pin電源オス
オウルテック OWL-ESODIDE(B)
インターフェース:USB2.0
電源:ACアダプター
 /USBバスパワー
部品を購入したクレバリーHPより引用


 外付けケースはX68000取り付け前の動作確認とX68000で万が一使えなかった時にWindows機の周辺装置とするために併せて購入しましたが、ドライブ自身のケースが薄く外から圧力がかかることで動作がおかしくなることを防止するため、また、X68000筐体への取り付けやすさやスロットとの高さあわせにもなることを考えて、外付けケースごとX68000に取り付けることにしました。まず、スロット1の内側のプラスチックの出っ張りを少し削った後、外付けケースの下面にマジックテープを張り、シールド板に直接貼り付けます。次に、このままではX68000本体を立てた時落下が心配なので、アルミ板で固定具をつくり、DVDの外付けケースにすっぽりかぶせて、FDDマウンタとともにねじで固定しました。

 DVDマルチドライブを外付けケースに入れて
マジックテープで固定。また、ドライブから線を
引き出し、イジェクトボタンやアクセスLEDへも
結線を行う。
 FDDのマウンタに組み込んだ外付け
ケースの固定具。これをかぶせて、FDD
マウンタとともに固定する。

 固定具が外付けケースにかぶさる
イメージ。実際はFDDに隠れて見え
ない。



キーワードはSCSI
 購入したDVDドライブのインタフェースであるIDEはATX機の内部接続用のインタフェースです。X68000にはそのコネクタはありません。そこでSCSIです。SCSI(Small Computer System Interface)はかって、パーソナルコンピュータ本体に周辺機器をつなぐための標準インタフェースでした。いまでは、USBに取って代わられていますが、その基本技術はサーバのハードディスク接続など信頼性が要求されるところに使われるSAS(SCSI Attachied Serial)やTCP/IPのパケットでコマンドやデータをやり取りするiSCSIとなって現在にも引き継がれています。X68000では当初はSCSIの前身であるSASIがハードディスク接続用に用意され、シリーズ後半の「SUPER」からSCSIに変更されました。SCSIになることで、ハードディスクのみならずCD-ROMドライブやPCカードリーダなどATAPIデバイスも接続できるようになりました。

 中古で入手したEXPERTはSASI機ですが、前オーナーによってSCSIインタフェースが増設されていましたので、これを用いてDVDを繋ぐことにします。FDDの代わりに取り付けるDVDマルチドライブはスリムタイプのIDEとなっていましたので、これに標準のIDEへの変換基板をつなぎ、さらにSCSI-IDE変換基板をつなぐことになります。SCSI-IDE変換基板はACARD社から数種類販売されていますが、新品で購入すると2万円近くするようです。私はヤフオクで買い求めた中古のSCSI接続DVD-ROMドライブユニット(ロジテック LCW-R6424DV)から変換基板を取り外して使用しました。写真がそれで、「AEC 7720LC」と型番が書かれており、ACARD AEC 7720シリーズのローコスト版かと推察されます。

 SCSI接続用DVD-ROMユニット
ロジテック LCW-R6424DV
 取り外したSCSI-IDE変換基板
ACARD AEC 7720LC

 基板の表面のコネクタがSCSIの50ピン、裏面のコネクタ(基板上部にランドが並んでいる)がIDEの40ピンとなります。この基板、本来は光学ドライブの背面に差し込み、垂直に設定して使うよう設計されておりますが、今回はスリムドライブのため、高さが足りません。やむなく、IDEのコネクタと同じ高さになるアクリル棒を切って作ったげたを裏面に接着し、ドライブ後ろの空きスペースに水平に設置し(マジックテープでシールド板に固定)、基板表面のコネクタのランド群とドライブに付けたIDEコネクタ中継基板(ユニバーサル基板を用いて自作)との間でジュンフロン0.26mm耐熱線で40本分、せっせと配線して接続しました。写真はその様子です。

変換基板設置と接続配線の様子配線の様子とSCSI-ID設定のジャンパー端子(右側)

 SCSI側の配線ですが、まず、EXPERTのSASIインタフェースは使わないものとし、そのケーブルやコネクタを外し、筐体背面の自作パネルにSCSI機器からはずしたSCSIハイピッチコネクタ×2(内部50Pコネクタ付き)を取り付けます。それの内部コネクタをSCSI-IDE変換基板に差し込みます。そして、拡張スロットのSCSIコネクタ(こちらはアンフェノールハーフピッチ)とSCSIハイピッチコネクタを変換アダプタを通して接続し、もうひとつのSCSIハイピッチコネクタにはターミネータを接続して、配線は完了です。以下はその様子です。

SCSIハイピッチコネクタ×2SCSI-IDE変換基板との接続SCSIインタフェース、ターミネータとの接続


 本当は筐体裏側の配線をすっきりさせるため、筐体の内部で接続することも考えましたが、課題が多くて、まずはこれでよしとしました。内部配線化が実現したら別途報告します。

 さて、やっと、パーツの設置と配線、接続が終わりました。ここで、大きな問題が・・・。


思いがけない課題!

 ドライブの設置からSCSI変換基板の接続と細かな課題をこなしながら製作を進める中で、ある日、X68トラブル関連掲示板を読んでいてとんでもない課題があることがわかりました。私は「FDDは通常使用では1基あればいい。ディスクコピーの時は別の機体(PROがあったりする)を利用すればいい」と安易に考えていましたが、どうもFDDが1基でも故障するとシステム(human68k)が起動しないらしいのです。さっそくドライブ1のFDDをはずした製作途中の機体を使って試しました。案の定、電源を入れ、システムFDをセットすると、「システムが起動できませんでした。リセットしてください」が表示されるではありませんか。

 「どうしよう。OSにパッチを入れるか」とも考えながら、掲示板を読み進めるとOSのパッチ当てにすでに取り組んでうまくいかなかったことも報告がありました。一方、完全FDDレス化に取り組んだ方もいました。その方がとった方法はというと、FDDがさも動いているかのように信号を生成する、具体的にはFDDがインタフェースに返す負論理のREADY信号をGNDに落とすというものでした。なるほど、うまく考えたものだなと感心する一方、私のようにFDDを一基のみ使う場合には、使えないなと思案。FDDインタフェースの回路図を眺めながら、はたとあることに気がつきました。FDDを選択するDRIVE SELECT信号がインタフェースからドライブ0,1,2,3用に4種類出ているのですが、その出力がいずれもオープンコレクタ形式になっていたのです。なら、この端子は隣同士でショートしてもこわれません。DRIVE SELECTの0と1を短絡しよう、そうすれば、ドライブ1の診断時にもドライブ0がREADY信号をアクティブにし、さもドライブ1があるかのように見せかけてくれるのではないかと考えたのです。さっそく、写真のように、FDDケーブルの先でショートピンを入れて試しました。結果はビンゴ!これでこの問題は解決したようなものです。

FDDケーブルのDRVE SEL.0とDRVE SEL.1(10番ピンと12番ピン)を短絡

 で、実際はこの短絡をどこで行うか(下部基板? FDD拡張コネクタの基板? まさか FDDの基板?)を考える中、もっといい方法に気がつきました。ドライブ選択信号4本はFDD側ではそのまま受け取り、該当番号のみジャンパーピンで選ぶことでドライブ番号を決定していて、ドライブ0でドライブ1の分もジャンパーピンを入れればいいことがわかりました。以下がその様子です。

右手前にあるジャンパーピンは手前から順に0,1,2,3の番号決定につながる。
(写真のように2つジャンパーピンを入れることで、ドライブ0,1兼用となる。)

 写真のように、ジャンパーを入れることで、このドライブは0番とも1番とも認識します。奥のOPTION SELECT信号のジャンパーピンは何に使われるのかわかりませんが、同じ設定にしておきました。これで、human68kのver2.0を起動すると、ビジュアルシェルが同じ内容のウィンドウを2つ開いてくれました。同じ内容のドライブレターはじゃまじゃないかと思われますが、気になれば DRIVE.X で片方をRAMディスクなどに振り返ればOKです。


ドライバの組み込み


 取り付けたDVDドライブをCD-ROMドライブとして動作させるには、フリーウェアのドライバソフト SUSIE.Xを組み込む必要があります。 CONFIG.SYSに以下のような文を追記し、再起動します。

DEVICE=SUSIE.X -ID2 -U1 -V1 @:
CONFIG.SYS への追加記述

 susie.xはGORRYさんが作られたSCSIデバイスドライバで、PC98やIBM-PCのディスクフォーマット、ISO-9660フォーマットのCD-ROMに対応しています(計測技研のCD-ROMドライバ「CDDEV.SYS」との互換性保持) 。記述のオプションの意味は、以下の通りです。
 
-IDnドライブのSCSI-IDを指定(n:0~7)
-U1機器が接続されていなくても常駐を許可
-V1ハードウェアでベリファイ(高速化を図る)
@:ドライブ名確保(複数書くとその数の分確保する)


動作テスト


 Windowsで書き込んだCD-Rのディレクトリ表示をさせたところです。

 CD-RW、DVD-ROMについても同様に表示でき、もちろん、ファイルの読み取りもできました。これでWindowsでダウンロードしたファイルをX68000にコピーすることが可能となりました。

 DVD-R、DVD-RAMについては、うまく読むことはできませんでした。


CDプレーヤ

 CDC.XTNB 製作所が制作された、CD-ROMドライブをオーディオCDプレイヤーとして利用するための常駐型ソフトウェアです。以下のように、操作してみました。

SET CDROM=2  ・・・ CD-ROM ID のセット
CDC /I     ・・・ 常駐開始 
CDC /L     ・・・ 演奏時間表示

 演奏制御を開始し、演奏時間表示もできました。本来、外付けドライブの制御用で、音声はドライブの背面からアンプに接続されている想定ですので、X68000内蔵のスピーカからは音声は聞こえません。



 こんどは、CD のオーディオトラック(CD-DA)を読み取ってファイルに出力するプログラム CD2PCMt.X (制作:TNB製作所)を使ってみました。

cd2pcm -i2 -g1 -adpcm
 
-i2ドライブのSCSI-IDを2で指定(指定しないと、IDは6となる)
-g11曲目を取り込み (今回はELTの「Future World」でテスト)
-adpcm adpcmのデータ形式に変換

 -o によるファイル指定を省略しましたので、既定名のtest.pcmに音声データが保存されました。それをadpcmにコピーすることで、無事CDの1曲目をX68000で再生できました。



おわりに

 X68000へのCD-ROMドライブの接続は、まさに10年越しの課題でした。そして、5インチフロッピーのスロットのひとつに CD ならぬ DVDドライブを入れることから、X68000の改造はスタートしました。取り付け方法、SCSI-IDE変換、FDD故障に対するOSの挙動を補正するなど課題てんこもりでしたが、なんとかここまできました。CD-ROMを無事読んでくれたときの嬉しさは筆舌につくせません。動作を支援するフリーウェアを作られた方には、とても感謝してします。

 ところで、フリーウェア CDC.X については、CDを再生して本体から音が出るものと勘違いしていて、音が出ないのは対応ドライブでないせいだとずっと思い込んでいましたが、9か月ぶりに見直して誤りに気がつきました。CD2PCMt が保存したadpcmファイルから音声が再生できたときは、2度目の感激を味わうことができました。本当はCDを読み取りながらそのまま音が出るといいのですが、
   (1) CD-DAの読み取り
   (2) 44.1kHzPCM→15.6kHzPCM 変換
   (3) 15.6kHzPCM→ADPCM に変換・保存
   (4) ADPCMドライバへの転送
の各ステップをリアルタイムに処理していくには、能力上無理があるようです(一応、CD-DAの読み取りは3倍速で行われました)。


追記(2013年7月7日)

 その後、X68000のCDプレーヤ化については、解決策を見いだしています。内蔵したDVDドライブにもアナログ音声出力端子が背面にありましたので、ATXなどの音声ケーブルを接続し、それをX68000下部コントロール基板のFM音源用アンプの入力に抵抗を通して接続するのです。ぜひ、実現してみたいところですが、そのためには、切れやすいジュンフロン線てんこもりの自作基板をはずして作業しなければなりません。今となっては、大変な作業になることが予想され、やる気が失せていますが、もし、今後、DVD周りの修理が必要となったときには、一緒にやってみたいと思います。



改造にあたり、とても参考になったサイト

ATX68000の部屋  「DVDドライブの換装」のページはとても参考になりました。